目次
1.働き方改革の流れ

昨今日本においては、働き方改革の流れが広まっていますが、病院においても課題となっているところが増えています。
日本全体の課題として、労働生産性が低いことが挙げられますが、その背景には、長時間労働や、サービス残業といった問題があります。こうした中で生産性を高めていくためには、付加価値を上げていくことはもちろん大切ですが、労働時間そのものを適正にしていく必要もあるだろうと言われています。
今回は、勤務医の皆さんにも知っておいていただきたい基本的な内容についてまとめています。一つずつ確認していきましょう。
2.働き方改革関連法
働き方改革の流れを受けて、働き方改革関連法が制定されています。
2016年には、アベノミクス第2ステージとして、働き方改革の検討がスタート。そして2017年には、働き方関連法案発布、2019年4月からは、順次、働き方改革関連法が施行されました。
中でも医師が注目すべきところとして、労働基準法の適用猶予・除外の事業・業務があります。
改正時、改善には時間がかかるため猶予が必要であると判断されたものが5つあり、医師もここに含まれています。
・自動車運転の業務
・建設事業
・医師
・鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
・新技術・新商品等の研究開発業務
医師については、改正法施行5年後に、上限規制を適用するとなっていますが、その施行開始日が2024年4月1日であり、もうあまり時間はありません。

3.医師の長時間労働
3-1.医師の長時間労働に対する問題意識の高まり
では、病院勤務の医師にスポットを当てて、現状を確認していきましょう。
ある調査では、週60時間を超える雇用者の割合が、他の産業よりも圧倒的に高い、ストレス度が高いというデータもあり、このままでは医療が持たない、という緊迫感が高まっています。
3-2. 医師については時間外労働の上限の特例あり
一方で医師については、時間外労働の上限規制について特例案が出されています(2023年1月末現在)。
特例案では、一般の事業者の時間外・休日労働の上限が720時間なのに対して、医師にはそれを超える上限を設定される見込みです。
ただ、それをこのまま放置してよいということではなく、できるだけ一般事業者と同じ水準に近づけていく必要があると言えます。
また、この上限は、そこに勤務する医師全員の時間外労働時間の平均ではなく、一人でも超過してはいけないということです。よって、各病院が真剣に、労働時間の削減に取り組んでいます。
4.働き方改革関連法の概要の整理

ここで、改めて働き方改革関連法の概要を整理していきましょう。
まず、年次有給休暇については、10日以上年次有給休暇が付与される労働者に対し、年間5日について、毎年時季指定して与えなければならないと定められました。
割増賃金率は、すべての事業所において、月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率を50%以上とする必要があります。ただし、中小企業については、2023年4月からとなります。
時間外労働については、月45時間、かつ、年間360時間までが原則とされています。ただし、特別条項付36協定を締結している場合でも、一定の条件を満たすことで、年間720時間以内と定められています。なお、医師は2024年3月末まで猶予が設けられています。
その他、労働時間の適正把握や、同一労働同一賃金などについて定められています。
かなり多くの関連法が施行されますが、病院として全て対応していかなければなりません。
また、医学生や若手医師のそれぞれ77%が労働時間の上限や36協定を守るべきと考えているというデータもあります。研修医の応募や、勤務医のモチベーション、離職に関わってきますので、意識の変化も見据えて働き方改革に対応していく必要があります。
5.働き方改革の対応を誤るとどうなるか

もしも、働き方改革の対応を誤ってしまうとどうなるでしょうか?
前述のように若手医師の意識の変化もありますので、まず医師の確保が難しくなります。
また、長時間労働の上限を超えてしまうと、病院としては様々なペナルティを受けてしまい、必要な医療の継続が困難になってしまいます。
そして、人件費が圧迫され、結果的に病院の経営も困難になることが予想されます。

ここまで見てきたように、働き方改革関連法施行を受けて、労働時間の削減が必要とされていますが、実際には医師から様々な声が上がっています。
「医師はもっと自由で裁量もあるべきだ。管理されるなんてまっぴらだ」、「なぜ医師だけに長時間労働が許されるのか。医師だって人間だ」、「昔は自由でよかったのに」、「医療や研究が制限されると困る」、「法律は守らないと」など、様々な受け止め方があるようです。
働き方改革の必要性を理解していただいたうえで、どういう改善が必要なのか、どうタスクシフトしていくのか、事務系の職種の方に協力をしていただきながら、進めていただきたいと思います。
6.労働時間とは

ここで、そもそも労働時間とは何かを確認していきましょう。
労働時間とは法的に言うと「使用者の指揮命令下にある時間」とされています。
個別のケースによって、どのように解釈するか難しい部分もありますので、いくつか例を見てみましょう。
例えば、ある診療科では、毎月第3木曜日の就業時間終了後の18:00から勉強会を開催しています。
もともと数名の医師が自主的に始めた勉強会なので、参加は自由で、出欠確認をするようなこともありません。
この時間は労働時間になるでしょうか?
上記のようなケースでは、任意参加であれば原則としては労働時間にはなりません。
次に、宿直について例を見てみましょう。
A病院の宿直は割と自由に過ごす時間があり、読書をしたり、ネットを見たり、睡眠を取る時間も十分取れます。
この場合、宿直時間は労働時間になるでしょうか?
特殊の措置を必要としない軽度または短時間の業務に限られ、睡眠時間も取れる場合は、労働基準法の宿直とみなされ、労働時間に該当しない場合があります。
ただし、労働時間とはならない宿直としているかどうかは、病院や診療科ごとに違います。
また、3交代勤務などで明確に勤務としている場合は、当然労働時間になります。
以上のように、状況に応じて、労働時間とみなすかは解釈が難しい場合もありますので、曖昧な場合は確認するようにしてください。
7.まとめ

いかがでしたでしょうか?
働き方改革は、長時間労働を是正し、医師の健康を守ること、病院が必要な医療を提供し続けることに繋がる、重要な取り組みです。
病院のルールに則って自分の労働時間を管理する、病院の働き方改革に協力する、時間の使い方や勤務時間の価値を高めていくなど、まずは関心を持って、一人一人ができることを実践していきましょう。
なお、「医師の働き方改革ポイント解説」コースには、管理職向けの動画「管理職医師のための 働き方改革と医師の労務マネジメント」もご用意していますので、ぜひ視聴してみてくださいね。